マイクグラベル

ishさんとこ経由で、暗いニュースリンクというブログの記事「異色のド根性大統領候補:マイク・グラベル」にたどりついた。すごく面白い記事だった。5月に書かれた記事だったのか。だいぶ乗り遅れている。

マイク・グラベル
「まあ、まず第一に理解しなきゃならんのは、ジョージ・ブッシュが詐欺的な基準に基づいてイラクに侵攻した時点でこの戦争は敗北していたということですな。それを理解しないといけません。議会で進行中の件については、実に嘆かわしい事態ですな。表決は下され、メディアは半狂乱だ。どんな表決だ?ジョージ・ブッシュは1年以上前から、大統領任期中はイラクから撤退させないと言い続けてる。信じられんだろう?

別の方策が必要だ。ペロシやリードと同じ席について、他の議員にも集中して話し合うよう望むが、どうやって撤退するつもりかね?決議案じゃなくて、法律を制定すべきだよ。撤退しなきゃ重罪になるという法律を作るんだ。その条文は私が用意する。

フィリバスター(発言による議事妨害)が心配なら、戦術をさずけよう。下院は通過できるだろうな。すでに多数派だから。上院では、フィリバスターをやらせればいいさ。それで、リード院内総務は毎日12時に討論終結動議を出すんだ。そしてアメリカ国民に、誰が戦争を長引かせているのかハッキリと見せてやれ!」

「戦術をさずけよう」
この言葉の背後には、彼の以下のような履歴が関わっているようだ。

当時はベトナム戦争が泥沼化していた時代。1971年、米国防総省の悪名高き機密文書“ペンタゴン・ペーパー”を元国務省職員ダニエル・エルスバーグがNYタイムズ紙とワシントンポスト紙にリークし、両紙が文書内容を記事で公表し始めると、ニクソン政権の司法省は両紙に対し記事差し止め命令を出し、法廷闘争に発展させた。

そこでアラスカ州上院議員マイク・グラベルの登場である。ペンタゴンペーパーの存在を知り、政府の隠し事に怒った彼は、同じ時期に議会で討議されていた徴兵制度の更新法案に反対し、たった一人でフィリバスター(議事妨害)を開始していた。そのフィリバスターのためにグラベルが議会で読み上げようとしたのが、極秘で入手した4,100ページ分のペンタゴン・ペーパーだったのだ。

上院議会での機密文書読み上げが禁止されると、グラベルは自分が委員を務める上院小委員会(国防と全く関係のない委員会)の聴聞会を、たった一人でこっそり真夜中に議会地下室で開催し、勝手にペンタゴン・ペーパーを読み始め、参照としてその機密文書4,100ページを小委員会議事録に収録するというユニークなやり方で、司法省の攻撃を逃れ、公開議事録を通じてペンタゴン・ペーパーに一般国民がアクセスできるようにした。本人曰く「この機密文書をただちに公開すれば、ベトナム戦争政策はひっくり返るはずだ」という信念に基づいた危険な挑戦であった。

さらにグラベルは、議会議事録に収録したペンタゴン・ペーパーの内容を、ニクソン政権の差し止め命令を無視して一般書籍として出版する行動に出た。ペンタゴンペーパーの出版を複数の出版社に持ちかけたが、訴訟とニクソン政権の攻撃を恐れた業界側は依頼を拒んだ。しかし1社だけ、ボストンの小出版社ビーコンプレスがグラベル議員の申し出を受け、ノーム・チョムスキーハワード・ジンの協力を得て『ペンタゴン・ペーパー:マイク・グラベル版』として出版にこぎつけた。ビーコンプレス社側は、訴訟覚悟、破産覚悟でニクソン政権に挑戦したという。グラベルは司法省に訴えられ、最高裁で敗北したが、すでに弱体化したニクソン政権側は湧き上がる世論の批判に逆らえず、機密文書出版の件でグラベルを罰することができなかった。(参照:ビーコンプレス社ペンタゴンペーパー特集ページ)

同時進行していた徴兵制度更新案についても、徴兵制度廃止を求めるグラベル民主党上院議員団の反対を無視し、たった一人で5ヶ月間フィリバスターを続け、結局ニクソン政権側と上院共和党議員団から譲歩を引き出すことに成功。1973年に合衆国の徴兵制度は事実上廃止されたが、それにはマイク・グラベルの活躍もおおいに貢献したのである。

記事内に再現されているオバマ、クシニッチ、グラベルによる論戦は、オバマの信じがたい本音を引き出していて見事だ。アメリカの闇の深さを思い知る。その最後のところ。

オバマ
「(苦笑して)どこも核攻撃する計画はないよ、今のところはね。マイク。約束しよう。」

(会場、笑い)

グラベル
「そうか、良かった。それじゃもうしばらくは安全だな。」

右を向いても左を向いても右だったってなもんで。


司会者:
「ちょっと自由討議しましょうか。グラベル(元)議員、それは重大な問責ですね。このステージ上の誰がそんなに恐ろしいのですか?」
グラベル
「先頭陣営の方々だよ。彼らが発言してるんだ。(ジョー・バイデン議員に向かって)ああっ、ジョー、あんたもその1人だぞ。あんたは本当に傲慢な人だな。あんた、イラク国民に国の運営について講義するつもりか?言っとくぞ!我が国はさっさと撤退すべきなんだ。何もせず撤退するんだ。彼らの国なんだぞ。彼らは我々に出て行けと言ってるんだ。それなのに我が国は駐留継続を主張している。なぜ出て行かない?どんな害があるというんだね?まあ、“それじゃ兵隊達の死が無駄になるじゃないか”という声もあるが、ベトナム戦争だって全部無駄死にだったじゃないか。今この瞬間にも、どんどん無駄に死んでいくんだぞ。1人の兵士が無駄に死ぬ以上に酷いことは何だと思うかね?もっとたくさんの兵士が無駄に死ぬことさ!それこそもっと悲惨だ。